国際HIV陽性者調査
HIV治療は進化するにつれ、その焦点は生命の存続から、HIVと共に生きて歳を重ねることに変わり、生活の質(QoL)の改善が目標となっています。長期的なQoLの維持はHIV陽性者の治療において重要な優先事項となっています。
国際HIV陽性者調査 “Positive Perspectives 2 Study”は、これまでで最大のHIV陽性者による“患者報告アウトカム研究”のひとつであり、25ヵ国で18〜84歳のHIVと共に生きる2,389人が参加しています。日本からは75名が参加しました。
この調査の結果は、将来に続いていくHIV治療において、以下に示したいくつかの重要な分野で取り組む必要のある“健康に関する生活の質”(健康関連QOL)の側面に与える因子について、陽性者の声から探索していきます。
この研究で焦点を当てた重要テーマ
- 複数の薬を服用することについての懸念
- HIV陽性者-医療従事者の関わり合い
- 検出不能=感染しない(U = U)※
- HIVと女性
- HIVと高齢化
※ Undetectable = Untransmittable
デンバー原則に則り、当事者参加による調査を実現するために、HIV陽性者、コミュニティリーダーおよび医療従事者で構成される諮問委員会が研究推進を支援しました。
ウイルス抑制のその先へ:
第4の90「生活の質(QOL)」
世界保健機関(WHO)は健康の定義において、診断に焦点を当てたアプローチから、身体的、精神的、および社会的領域全体にわたる人のポジティブな全体的な幸福と生活の質(QOL)を重視するアプローチに焦点を移しました1)。 このパラダイムシフトは、UNAIDS目標の90-90-90の「第4の90」への組み込みにより、HIV領域にも出現し、健康関連QOLの改善を求めています2)。
Positive Perspectives 2 目的①:
調査概要(国際共同調査)
【背景】
治療の進歩により、HIV陽性者は現在、長期生存が可能となった一方で、併存疾患および多剤併用の問題に直面しています。ウイルス量検出限界以下を維持しているHIV陽性者の、健康のより広範な側面における多剤併用の影響についてはほとんど知られていません。
【目的】
本調査ではポリファーマシー(多くの薬を摂取していること)と全体的な健康状態、治療ニーズの認識との関連を検討しました。
【対象】
2019年4月~8月に実施されたPositive Perspective 2調査を完了した24ヵ国の成人HIV陽性者2,112例
注)本調査は世界25ヵ国で実施されたが、目的①については南アフリカとロシアの一部が含まれていない
【方法】
ウェブ又は人を介した方法による自己評価方式で、全体的な健康、治療満足度、自己申告によるウイルスコントロールについて評価し、薬剤数とQOLの関係について調査しました。
ポリファーマシーとは、1日5錠以上服用、または5種類以上の症状で治療している場合と定義しました。データは記述的多変量解析により分析しました。
HIV陽性者の56%が全体的健康状態が良いと回答しました
健康状態が良いと回答した人の割合は、性的健康で47%、精神的健康で56%、身体的健康では58%でした。
HIV陽性者の73%は、ウイルス抑制されている限りHIV治療の薬剤成分数の削減に前向きでした
HIV陽性者の75%は毎日服用している薬剤の成分数を自覚しており、ウイルス抑制されている限りはHIV治療の薬剤成分数の削減に前向きでした(73%)。
診断されて2年以上経過した陽性者において、HIV治療開始時と現在では治療に対して重視していた点に違いがみられました
診断されて2年以上のHIV陽性者において、HIV治療開始時と比較して、現在(調査時)においてHIV治療に対して重視した点に変化がみられました。変化が大きかったものではHIV治療による長期的な影響を最小限に抑えること(+16%)、抗HIV薬の薬剤成分数を最小限に抑えること(+15%)でした。(n=1,624)
1) World Health Organization. Constitution. https://www.who.int/about/who-we-are/constitution. Accessed September 19, 2019.
2) Lazarus JV, et al.: BMC Med 2016; 14(1):94.
Okoli C, et al.: Prev Chronic Dis. 2020. 17:E22. doi: 10.5888/pcd17.190359
[本試験に関する費用は、ヴィーブヘルスケア(株)の支援を受けた。著者には、ヴィーブヘルスケア(株)の社員が含まれる。]